自民党が、種苗法改正案の今国会での成立を見送る方針を示唆しました。

種苗法の改正に関しては、ある女優さんがSNSでつぶやいた事で話題が沸騰したのですが、一般の人々にとっても大きな影響を及ぼす事でありながら、新聞やニュースで報道されていないという事自体が、既に問題という状態でした。

この問題は、対立構造や争点が絡み合って、ちょっとわかりにくい議論になっています。
そもそも改正の推進派と反対派 双方の理屈を知り、納得の行く結論を導き出す為にも、論点をスッキリと切り分ける必要があると思います。

争点は3つある

争点1:「自家採種の禁止」

まず、今回の改正でいちばん問題視されているのは「自家採種の禁止」事項ではないでしょうか。
現行では、種を購入した農家は、育てた植物から種を取ったり、次の収穫の為に分けた苗や枝を、繰り返し利用する自由があります。
(※「自家増殖の例外」として、許諾が必要な品種もある)

ところが改正後は「登録品種」すべてに、自家採種の許諾を得る事が必要になります。
許諾を得ないで種を取って育てるのは禁止となり、種を使いたければ、その都度「ロイヤリティ」を支払う義務が生じます。
反対派はこの「ロイヤリティ」の支払いを、農家の経営を圧迫するものとして退けたい意向です。

争点2:「海外への流出防止」

今回の改正の理由として農水省は、日本の登録品種が海外に無断で持ち出されてしまう事を挙げています。

登録品種の自家採種を許諾制にする事でデータを把握し、侵害が発覚した場合に追跡できるよう取り締まる為です。
そして訴訟に持ち込んで損害を取り戻すためには、現在のような甘い管理では勝ち目がないというのが理由です。

一方 反対派は「自家採種の禁止」をしたところで、海外への流出は規制できないとしています。
海外での権利を主張するための「意匠登録」や「育種登録」を推進したり、関税での取り締まりを強化すれば済む話だと言っています。

争点3:農家の衰退を危惧する声

種苗法改正の目的は、あくまでも「種苗育成者の権利保護」です。

ところが反対派には、この問題と「種子法の廃止」をセットで論じる人が多いようです。

「種子法の廃止」とは、ざっくり言えば、お米などの種子事業の『規制緩和』です。
お米や大豆などの種は、今までは公的に運営されていて、民間は参入できない状態でした。
それを、これからは民間に委ねようと決めたのが「種子法の廃止」です。

反対派はこの「種子法の廃止」と、今回の「種苗法の改正」をセットにして、
企業を優遇し過ぎだと主張するので、話がややこしくなってしまうのです。

対立構造がわかりにくい

この問題で対立している組織としては、推進派が「農水省」で、反対派は「日本の種子(たね)を守る会」や「農民運動全国連合会」といった、農業者や農協、生協が主催する団体です。

ところが実際は、そう簡単ではありません。

たとえば新種の登録者の内訳を見てみると、企業は49%、個人が21%、都道府県が15%になっています。
農家が新種を登録しているケースも、20%以上あるわけです。

さらに登録品種を育てている農家の中には、海外への流出のせいで、せっかく栽培した作物の価値が下がってしまう事に、危機感を覚えている人たちもいます。

種苗法の改正は、決して農家全体が反対している訳ではありません。

今回この件が話題になった事で、ようやく賛成派の意見も見られるようになってきました。
(1年前くらいは、反対派の意見ばかりが目立っていました)

反対派の意見には、去年からの変化はほとんど見られず、
逆に賛成派の方には、ネット上に分かりやすい解説などの情報が増えてきました。

ただ、マスコミの情報は相変わらずで、納得のいくような報道は見られません。
改正が見送られるかどうかも決定したわけではなく、この問題の決着は着いていないというのが現状です。




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